■ 払わせるための対処法が知りたい
■ 給与の差押えってどうやるの?
この記事では上記のような疑問、お悩みにお応えする内容となっています。
残念ながら、一度養育費について取り決めたものの、その後未払となる可能性があります。ただ、養育費はあなたやあなたの子供が請求できる法律上の権利です。未払となったからといって、泣き寝入りしてはいけません。
この記事では、相手が養育費が未払いとなった場合に取りうる対処法について詳しく解説します。これから養育費について取り決めする方も、すでに取り決めた方もぜひ参考にしていただければと思います。
養育費が未払いとなった場合に取りうる手段
相手からの養育費が未払いとなった場合に取りうる手段は次の5つです。
① 電話、メールで催促する
② 内容証明で請求書面を送る
③ 調停を申し立てる
④ 履行勧告を申し立てる
⑤ 相手の給与を差し押さえる手続きを取る
①電話、メールで催促する
相手と連絡がつく場合は、まずは「合意したとおり(約束通り)、〇〇までに養育費を払って」と電話やメールで催促してみましょう。
ただ、相手にも何か払えない理由ができたのかもしれません。まずは、感情的にならず、払えない理由もあわせて尋ねてみるとよいです。相手とコンタクトが取れた場合は、相手から免除、減額を申し入れられるかもしれません。その際の対処法は以下の記事で解説しています。
②内容証明で請求書面を送る
電話やメールでの催促に応じない場合は、内容証明で請求書面を相手の住所宛てに送ってみましょう。内容証明とは、いつ、どんな文章が、誰から誰に郵送されたかを郵便局側が証明してくれる郵便制度です。
普段、内容証明による請求書面を受け取る機会など少ないでしょうから、書面の内容を工夫すれば、相手に一定のプレッシャーをかけ養育費の支払いに応じさせることができるかもしれません。
相手の住所を把握できていない場合は、相手の戸籍の附票を取り寄せる、弁護士の弁護士照会制度を活用するなどして把握しておく必要があります(ただし、弁護士に請求書面の作成等を依頼することが前提となります)。
③調停を申し立てる
前回の養育費の取り決めの際に調停を活用していない場合は、調停を申し立てることも検討しましょう。
裁判所に申立てが受理されると、あなたが調停を申し立てたことは裁判所を通じて相手にも伝わります。相手が「裁判(厳密には裁判ではありませんが)など面倒だな」と感じた場合は、手続きを進めるまでもなく養育費を払ってくれるかもしれません。
また、手続きを進めることになった場合でも、当事者の間に調停委員が入って話をまとめてくれます。当事者同士で話し合うよりかは、話がまとまる可能性があります。
なお、申し立てを行うには、相手の住所を把握しておかなければいけません。住所を把握できていない場合の対処法は②と同様です。
④履行勧告を申し立てる
前回の取り決めの際に調停(あるいは、審判、裁判(判決)(以下、調停等といいます))を活用している場合は、家庭裁判所に履行勧告を出してもらうよう申し立てることができます。申立て方法は書面のほか口頭(電話を含む)でも可能で、申し立てに費用はかかりません。
履行勧告とは、相手が調停等で決められた養育費の支払い義務を履行しない(守らない)場合に、家庭裁判所が相手にその義務を守るよう勧告するものです。申立てを受理した裁判所は調査を行い、正当な理由なく養育費を支払っていないと認めた場合は電話や文書、あるいは直接相手を裁判所に呼び出して養育費を支払うよう勧告します。
ただし、履行勧告に応じるかどうかは相手しだいで、応じないからといって強制的に応じさせるだけの強制力はありません。
⑤履行命令を申し立てる
相手が履行勧告に応じない場合は、履行命令を申し立てるという方法もあります。履行命令とは、相手に裁判所が定めた期限までに養育費を支払うよう命じ、正当な理由なく命令に従わない場合は「10万円以下の過料」を科すものです。
裁判所は履行命令を出すかどうかを判断する前に、必ず相手を裁判所に呼び出して意見を聴く手続きを取ります。ただ、相手がこれに応じない場合はこの手続きを省略して命令を出すこともあります。
10万円以下の過料を科すことができる点で履行勧告よりも効果を期待できますが、履行勧告と同様、未払い分の養育費を回収することはできないという限界があります。
⑥相手の財産を差し押さえる手続きを取る
相手が履行命令にも応じないような場合に、最終手段として相手の財産を差し押さえる手続きを取ります。後述しますが、差し押さえの対象とする財産は「給与」とすることが多いです。相手の財産を差し押さえる手続のことを強制執行といいます。
養育費の強制執行を行う前にやるべきこと
相手の財産を差し押さえるまで(給与(※)を差し押さえる場合)のおおまかな流れは次のとおりです。
① 裁判所に申立てを行う
↓
② 裁判官が差押命令を発布する
↓
③ 会社に相手の給与を自分の口座に振り込むよう請求(取立て)する
ただし、「①裁判所に申立てを行う」には、いろいろと準備すべきことがあります。そこで、以下では、裁判所に申立てを行う前にやるべきことについて解説したいと思います。
必要書類を準備する
まず、裁判所に申立てを行うには、申立てのための必要書類を準備する必要があります。申立てに必要な書類は次のとおりです。「申立書一式」の各書式については、「申立書一式」をクリックすると東京地方裁判所が公表している書式のページに飛びます。ただ、必要書類や申立てに必要な費用については、申立て先の裁判所に必ず確認してください。
【差押えの申し立てに必要な書類】
■ 申立書一式
・表紙
・当事者目録
・請求債権目録
・差押債権目録
■ 債務名義の正本
■ 送達証明書
■ (執行文)
■ 商業登記事項証明書(資格証明書)
※給与を差し押さえる場合は、申し立てを行った日から1か月以内に発行されたものが必要です。法務局に申請すれば発行してくれます。
■ あなた(債権者)と相手(債務者)の戸籍謄本等
※下記の「申立てを行う裁判所を確認する」で解説します。
㊟申立書の作成の注意点などについては「債権差押命令の申立てをされる方へ」をご覧ください。
「債務名義」について
債務名義とは、相手(債務者)に養育費などのお金の支払いを請求する権利があることを公的に証明した文書のことです。具体的には、以下の文書が債務名義となります。
■ 強制執行認諾付き公正証書(以下、公正証書といいます)
※ただし、支払金額や支払時期(支払始期・終期)を具体的に定めていることが必要です。
■ 離婚調停の調停調書
■ 養育費(請求・増額・減額)調停の調停調書
■ 離婚審判の審判調書
■ 養育費審判の審判調書
■ 離婚訴訟の和解調書
■ 離婚訴訟の判決書
これらの文書が手元にない場合は、手続きをした公証役場、裁判所に問い合わせて取り寄せる必要があります。なお、離婚協議書、合意書などの私文書は債務名義にはなりません。
送達証明書について
送達証明書(※)とは、相手に上記の公的文書が送達されたことを裁判所が証明した文書のことです。
公正証書の送達証明書は公証役場から、その他の調停調書等の送達証明書は家庭裁判所から取り寄せます。
※公正証書や調停調書等の正本(正本とは原本の写しで、公証人や裁判所書記官が記載した正本である旨の認証文言が入っている文書のこと。「謄本」とは異なります。)
執行文について
執行文とは、強制執行ができることを証明する証明文のことです。
「債務名義」の箇所でご紹介した文書のうち、「公正証書」、「和解調書」、「判決書」については文書の中に執行文を付与してもらう必要があります。執行文を付与してもらうには、公正証書の場合は公正証書を作ってもらった公証役場に、和解調書・判決書については裁判を行った裁判所に「執行文付与の申し立て」を行って、執行文を付与してもらう必要があります。
申立てに必要な費用を確認する
申立てに必要な費用は
■ 申立手数料
■ 郵便切手代
です。
申立て手数料は4000円です。4000円分の収入印紙を申立書に貼って納付します。郵便切手代(郵便切手の種類、枚数)は各裁判所により異なりますので、必ず申立て先の裁判所に確認してください。東京地方裁判所の場合は以下のとおりです。
【郵便切手代と内訳】
●郵便切手代:3,495円
●内訳:500切手5枚、100切手4枚、84円切手5枚、20円切手5枚、10円切手5枚、5円切手3枚、2円切手5枚
申立て先の裁判所(相手の住所)を特定する
申立てを行う裁判所は、債務名義にかかれた相手の住所を管轄する裁判所です。管轄裁判所は下記でお調べください。
あなたの住所又は氏名が債務名義に書かれた住所・氏名と異なっている場合は、債務名義に書かれた住所・氏名と現在の住所・氏名のつながりを明らかにするための戸籍謄本等(戸籍謄本(戸籍の附票付きのもの)、住民票)が必要です(あなたの場合、申立てから2か月以内のもの、相手の場合、申立てから1か月以内のもの)。
相手の勤務先を特定する
相手の給与を差し押さえるには、相手の勤務先を特定する必要があります。相手が離婚前の勤務先で働いていることが確実であれば問題ありませんが、退職・転職で働いていない場合は相手の勤務先を特定する必要があります。
相手の勤務先を特定するには、直接相手から聞き出すのが一番ですが、養育費が未払いとなっている場合は、音信不通、連絡が取れない、相手が勤務先を明らかにしない、という場合も多いでしょう。
そんなときに活用したいのが
■ 第三者からの情報開示手続
です。
財産開示手続は、裁判所が相手を裁判所に出頭させて勤務先に関する情報の開示を求める手続きです。相手が正当な理由なく裁判所に出頭しない場合は「6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金」の罰則が用意されています。
第三者からの情報開示手続は、第三者(勤務先の情報開示を求める場合は「市区町村又は日本年金機構などの年金を取り扱う団体」)に対し、相手の勤務先に関する情報の開示を求める手続きです。先の財産開示手続を終えた後でなければ、この手続きを利用することはできません。
参照:財産開示手続 | 裁判所
参照:第三者からの情報取得手続 | 裁判所
差押えの申立てを行った後の流れ
以下では、裁判所に差押えの申立てを行った後の流れについてみていきましょう。
①裁判所に申立てを行う
↓
②陳述催告の申立てを行う
↓
③裁判所から差押命令が発布される
↓
④債権差押命令書、送達通知書、陳述書を受け取る
↓
⑤取立てを行い、裁判所に取立届を提出する
なお、申立て(①)から差押命令が発布される(③)までにかかる期間は2週間前後です。
①裁判所に申立てを行う
必要書類をそろえ、申立て先の裁判所を確認できたら、裁判所に必要書類を提出して申立てを行います。
②陳述催告の申立てを行う
陳述催告の申立てとは、第三債務者(給与を差し押さえる場合は相手に給与を支払う義務がある「会社」)に対して、相手に支払う給与があるかどうか、支払いに応じる意思があるかどうかなどについて回答を求めるための申立てのことです。
この申立てをしておくと、裁判所から第三債務者に「債権差押命令書」が送達された後、差し押さえから取立てまでの手続きがスムーズに進みます。
③裁判官が差押命令を発布する
必要書類等に不備がない場合、裁判官が差押命令を発布します。その後、裁判所から第三債務者に「債権差押命令書」が送達されます。債権差押命令書を受け取った第三債務者は相手に給与を支払うことができなくなります。
裁判所が第三債務者に債権差押命令書を送達できたことを確認した後、裁判所から相手に債権差押命令書を送達します。その後、第三債務者が裁判所に「陳述催告の申立てに対する回答書」を送ります。
④債権差押命令書、送達通知書、陳述書を受け取る
相手が債権差押命令書を受け取ると、裁判所からあなたに対して「債権差押命令書」、「送達通知書」、「陳述書」が送達されますので受け取りましょう。
債権差押命令書には、給与が差押えの対象となったことなどが記載されています。送達証明書には、第三債務者と相手にいつ債権差押命令書が送達されたかが記載されています。陳述書には、陳述催告の申立てに対する第三債務者の回答内容が記載されています。
⑤取立てを行い、裁判所に取立届を提出する
養育費については、債務者に債権差押命令書が送達された日の翌日から1週間が経過した後に取立てを行うことができます。送達日は送達証明書で確認できます。
「取立て」とは、ご自分で会社に連絡を入れ、担当者に対して自分の口座に相手の給与を振り込んでもらうよう段取りを取ることです(裁判所が取立てを行ってくれるわけではありません)。
口座にお金が振り込まれたら、裁判所に取り立てを行った旨を記載した「取立届」を提出する必要があります。給与の場合、1度、決定を受けると継続して取り立てることが可能ですが、取立届は取立てた都度、提出する必要があります。
取立届の書式は裁判所のホームページに掲載されています。
養育費の強制執行を行う上での注意点
最後に、給与を差し押さえる際の注意点について解説します。
差押命令を受けた後、相手が仕事を辞めたらどうなる?
残念ながら給与を取り立てることはできなくなります。
もっとも、相手が退職金を受け取るときは、その退職金も取り立てることができます。取り立てることができる退職金は手取り額の2分の1までです。相手の退職後は、相手の新しい勤務先を突き止め、はじめから手続きをやり直す必要があります。
申し立てをした後、相手が逃げたらどうなる?
相手が逃げる、すなわち、現住所地から行方をくらましても手続きを進めることは可能です。相手への債権差押命令書の送達も、就業場所送達、公示送達、付郵便送達の方法で対応可能です。
今回の内容は以上となります。
最後までお読みいただきありがとうございました。